ポップは留まるところを知らない  たむらぱん「ナクナイ」

たむらぱん3rdアルバム。シングルも相変わらず素晴らしい出来だったので、アルバム曲が埋もれやしないかとちょっと心配していたけれど杞憂に終わった。


ナクナイ(初回限定盤)(DVD付)

ナクナイ(初回限定盤)(DVD付)


特に、という表現はいらない。もう全部すげえもの。ごめん、に至っては音符が跳ねてるよう。


今までずっとたむらぱんはメロディの人かと思っていたけれど(歌詞にくらべれば、ということで。むろんどちらも非常に高いレベル)、詞の載せ方においても、ずっとはるか高みに登ったんじゃないか。


万人に向けて激しくポジティブに響く一枚。


余談になるけれど、アルバム同梱のDVDはそれだけで同じ値段で売り出されていてもおかしくないクオリティ。多少ピッチが安定していないところはあるけれど、画面から伝わってくるパワーはすごいぞ。生でみたら、たぶんもっと凄い。

そういえばカバー裏とか特に何もないね  長嶋有「祝福」

祝福

祝福

デビュー10周年を迎える第10作品集。帯に書いてある「長嶋有によるひとり紅白歌合戦 女主人公5人vs男主人公5人」がブルボン小林臭を醸し出していてちょっと不安だったけれど、これがなかなか。せっかくなので短編ごとにコメントしてみることとする。●は女主人公、○は男主人公(いちおう書いておく)

●丹下
在宅物書きの主人公が「丹下!」という声を聞き、散歩して昼を食べたりしていく、生活を切り取った短編。とくに他の登場人物もなくただただ文章が流れていく感じ。

○マラソンをさぼる
不良とマラソンをさぼる話。ぶっちゃけ浅香唯のセシルって書きたかっただけだろと。結果的にパラレルじゃない二人の交差っぽくなっててそれがグー。

●穴場で
花火をみるカップル+αの掌編。間抜けな距離感がくすりときた。

○山根と六郎
コンビニでカップ麺を買って食う男二人の話。六郎って名前の由来が気になった程度。

●噛みながら
僕は落ち着きがない、のカバー裏所収作品。漫画にもなった。銀行強盗に遭遇するって緊迫しているはずのシチュエーションで考えることがアホらしすぎてオチでさらにずっこける。

○ジャージの一人
ジャージの二人の前日談である。それ以上でもそれ以下でもない。山は怖いところだぜ(非遭難)感。

ファットスプレッド
音楽好きなカップルの短編。なんとオザケンに始まりオザケンに終わった。残念ながら復活とか関係なく「LIFE」一枚についてだけど。それを除いても小ネタが気持ちよく機能していて良かった。

○海の男
海釣りをする男二人の短編。これまでの作品で証明されているように、恋人を描くよりもちょっと遠い友達の関係を書いたときに長嶋有はぐっとくることを書くのである。

●十時間
寒い夜を超える姉妹の短編。貧乏なことより貧乏だと思われるのが恥ずかしいという気持ちにそうだそうだよ!と手を打つとともにとても悲しくなった。猛スピードで母は、と同じ系譜を辿る良作。

○祝福
表題作にして本領発揮したダメ男を描いた短編。なんだこの無気力は。にもかかわらずわかってしまうのはなんでだ! ぐっとくる、ぐっときた。


以上、まとまりのないコメント。

愛すべき不安 HARCO「Ethology」

夏の光についてちょろっと書いたと思ったら、一気に寒くなって秋めいてしまった。


Ethology

Ethology


暑いあいだ、一生懸命だったのはHARCOの過去作を入手することだった気がする。とりあえず、ミニアルバム三部作の一作目、Ethologyについて。


動物行動学という意味らしい。字面だけだとどっかの毎日の環境学みたいでちょっと不安をかき立てられるけど、それまでとそれほど変わりはない楽曲群だ。一周して大きく違うのはやはり、歌詞の普遍化がある。一曲目の「お引越し」なんかは、独居暮らしならだれでも共感できるようなシチュエーション(「君」の存在はおいておくとして)の僕が描かれている。


「天気雨」からは、それまでの「らしさ」が戻ってくる。どっかヘンなメロディーと目線。


変化をはっきりと見つけることになるのは「嘘つき」だろう。文字で示される別れは、たとえひねくれた書き方をしても輪郭をぼやけさせるられないくらいに、「僕」の実感をもって歌われる。


ある「僕」が、不安を持って君と向き合ったり、手探りで歩くような生活を、愛情をこめて表現したようなミニアルバムだ。

夏が来ている。光かどうかは知らない キリンジ「夏の光」

夏の光

夏の光

久しぶりのキリンジのシングルなのであるが、一発でぐっと掴まれる感じはしない。一度聴き、ヴォーカルレスバージョンを聴いてやっと納得がいくような、そんな曲である。


よくあるやたらなポジティブさも切なさもなく、ただ湿度を感じない暑さが流れるように描かれている。しばらくはこの曲を聴き続けることにした。

一度触れたことのあるひとなら、迷わず買うべき 川本真琴「The Complete Singles Collection 1996-2001」

The Complete Singles Collection 1996~2001

The Complete Singles Collection 1996~2001


過去のシングル曲をB面含め丸ごと収録。聞き覚えのあるシングル曲だけじゃなく、名曲揃いのB面が非常に素晴らしいのだ。


「桜」収録の「ドーナッツのリング」「1/2」収録の「1」なんかは、それまでの彼女へのイメージを一変させるほどのクオリティを持っている。


だが一番強烈なのはLUPINO名義でデビュー前に録音された曲たちだろうか。マジパネェ。

才能は変わっていないと思う。ただ世界が変わっただけ  川本真琴feat.tiger fake fur「音楽の世界へようこそ」

音楽の世界へようこそ

音楽の世界へようこそ


ずっと待っていた新譜。9年ぶり。当然のように2ndとは方向性が違っていたけれど、個人的には十分に満足のいく出来であったと思う。川本真琴という才能は不変。


「音楽の世界へようこそ」でなんか楽しそうなことやってんなー、ってぐいぐい引きこまれ、「アイラブユー」で近づいた心が強く掴まれ「縄文」でドキドキし「ポンタゴ」でかつてのヒット曲を想起してしまい揺さぶられる。
「マギーズファームへようこそ」で楽しいけれど終わりが近づく悲しみを感じ、メジャーを辞めてからすぐに歌っている「小鳥のうた」で幕は下りる。


前作の問題点であったまとまりのなさ、は完全に払拭されている。


作るスタイルが完全に自然のものになったからだろうか。このまま歌い続けてくれることだけを願う。できれば、音源も出してね。