そういえばカバー裏とか特に何もないね  長嶋有「祝福」

祝福

祝福

デビュー10周年を迎える第10作品集。帯に書いてある「長嶋有によるひとり紅白歌合戦 女主人公5人vs男主人公5人」がブルボン小林臭を醸し出していてちょっと不安だったけれど、これがなかなか。せっかくなので短編ごとにコメントしてみることとする。●は女主人公、○は男主人公(いちおう書いておく)

●丹下
在宅物書きの主人公が「丹下!」という声を聞き、散歩して昼を食べたりしていく、生活を切り取った短編。とくに他の登場人物もなくただただ文章が流れていく感じ。

○マラソンをさぼる
不良とマラソンをさぼる話。ぶっちゃけ浅香唯のセシルって書きたかっただけだろと。結果的にパラレルじゃない二人の交差っぽくなっててそれがグー。

●穴場で
花火をみるカップル+αの掌編。間抜けな距離感がくすりときた。

○山根と六郎
コンビニでカップ麺を買って食う男二人の話。六郎って名前の由来が気になった程度。

●噛みながら
僕は落ち着きがない、のカバー裏所収作品。漫画にもなった。銀行強盗に遭遇するって緊迫しているはずのシチュエーションで考えることがアホらしすぎてオチでさらにずっこける。

○ジャージの一人
ジャージの二人の前日談である。それ以上でもそれ以下でもない。山は怖いところだぜ(非遭難)感。

ファットスプレッド
音楽好きなカップルの短編。なんとオザケンに始まりオザケンに終わった。残念ながら復活とか関係なく「LIFE」一枚についてだけど。それを除いても小ネタが気持ちよく機能していて良かった。

○海の男
海釣りをする男二人の短編。これまでの作品で証明されているように、恋人を描くよりもちょっと遠い友達の関係を書いたときに長嶋有はぐっとくることを書くのである。

●十時間
寒い夜を超える姉妹の短編。貧乏なことより貧乏だと思われるのが恥ずかしいという気持ちにそうだそうだよ!と手を打つとともにとても悲しくなった。猛スピードで母は、と同じ系譜を辿る良作。

○祝福
表題作にして本領発揮したダメ男を描いた短編。なんだこの無気力は。にもかかわらずわかってしまうのはなんでだ! ぐっとくる、ぐっときた。


以上、まとまりのないコメント。