人の中身が変わるとき、そこにたぶん他人はいない

だいたい、コミュニティに属していれば経験するだろうが、空気を読めない人間は常に居るもので、言ってはいけない一言を軽々しく連発して、その場を凍らせる。それは別に飲み会に限ったことではなく。


ちょっとここで考えて欲しいのは、いわゆるそのKYの中には、自分の言葉の効果を考えて台詞を口走っているものがいることだ。


さて、さっきまで学校の飲みに参加してきたわけだが、そのメンバーが実に濃密であった。学校の中でも文学部というちょっと社会的にアレな人たちが集まる中であんまりまともじゃない人たちが集まるような飲み会だった。要は、ヲタオンリーだったのだ。


そうなると、漫画ヲタである僕が居場所をなくすのが必然ではあったが、それに加えて考えたのがこのエントリである。ヲタという生き物はどういうわけだか、己の持っている知識を披露したがる傾向にある。男女関係無く。今回もそれは例外ではなく、アニメの声優やら、作画だかカップリングだかについての議論が僕の斜め前で大いに盛り上がっていた。


蚊帳の外に居る身分であるから、それに感心するせざるに関係無く、一通り話が終わったらもっともらしく頷いていた。だが、その語るメンバーの中でひときわ僕を首肯させていたのは、知り合いのアニヲタの男よりも、一見それとは気づかないような女の子だった。


知り合いのアニヲタは、恐らくは知識的にはその場にいる中で一番の人間だった。ガンダムについて語れば、3時間ぐらいひとりで持たせることができただろう。その場の話題なんて考えない、立派なKYだ。しかし、その女の子はその場で見た目からは分からないほどの押しの強さでカップリングについて語った。


お互いの持論が展開する中で、この女の子がここまでに至らせたものは何であろうかと、カルアミルクを含みながら考えた。多分無自覚に、ここまで口を動かさなければいけない理由は。


ビールの炭酸が胃を圧迫しているなか、偶然に帰り道が同じだった女の子について婉曲的にその理由を聞いてみた。ちょっと変わったね、くらいのニュアンスで。すると、女の子は僕の目を見つめて語り始めた。学校の最寄り駅から、僕の家まで約10分のあいだ。「私、声優の養成所に通っててさ」から始まり、声優の学校がいかに恐ろしいところだろうかと。同じクラスにいる人間を蹴落とさなければ行けない。先生にいかに自分を覚えてもらうか。それを達成するほどの個性が私にはないから、私はとにかく手をあげる。意見を言う。たとえ先生にけなされても。聞きながら僕は笑うしかできなかった。どこにでもいる女の子を、意識的にKYになるように仕立て上げたのはその向上心だったのだ。


人を変えるのはその人の意図。ということをただの酔っぱらいのニート学生の僕は漠然と考えた。恐ろしい飲み会であった。